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カフェコラム

和のある社会へ

「夢に出てくるかもしれませんよ。」
12年程前、府中刑務所内を初めて見学させていただいた時の案内してくださったスタッフの言葉でした。受刑者の行進、作業、工場での施錠、挨拶、敬礼そして入浴の時の順番待ち等、本当に夢に出てきそうな強烈なシーンの連続でした。塀の中の受刑者更生作業をテレビで見たりすることもあり、自分なりに想像していましたが、それよりもはるかに非日常的な厳しさや異様な怖さを感じ、デザイナーとして、キャピック製品に関わる思考ができずにいたことを覚えています。
平成7年から刑務所作業製品に関わらせていただいております。キャピック製品の新製品をデザインさせていただいたり、新製品審査員、研究会講師、そして刑務所作業製品ロゴを作成したり、「社会を明るくする運動」に自分も貢献できる喜びとしてお手伝いさせていただいています。
刑務所作業製品は、夢にまで出てきそうな非日常的な場所で製作されるわけですから、そこに関わる方達の仕事は、民間企業の製品作りとは全く異なる厳しさがあると痛感しております。今まで刑務所作業製品に関わってきました経緯から率直な思いを述べさせていただこうと思います。

全国矯正展

私と同い年(第49回)ということもあり他ならぬ縁も感じ、いろんな方々に紹介しております。中には刑務所ということに抵抗を感じている方もいますが、何回かやわらかく声をかけますと興味をいだいてくれます。最初はとにかく喜んで買われますが、年々買うものが減っていきます。何年も来ていただいている方は、何か新しいものを探しに来ますが、なかなか見つからないのが現状です。
地域色豊かなこの展示即売会は、高校球児の晴れ舞台・甲子園大会と似たところがあると思います。各都道府県の刑務所作業製品が地域別に展示され、それぞれが競っているようにも見えるからです。昨年のようにスター選手が出れば一層盛り上がりますが、毎年スター選手が現れるとは限りません。全国矯正展も同じように新しいヒット商品というのは、簡単に生まれるとも思いません。
6月の全国矯正展は地元だけの高校生チームのような、その地方ならではの製品作りで、さらに地方色豊かな和でいきたいものです。

キャピック・刑務所作業製品

一昨年、刑務所作業製品とCAPICマークを一体としたロゴをデザインさせていただきました。日本語の字体は大きく分けて2種類あります。明朝体とゴシック体です。新しいロゴはこのどちらにも偏ることのない字体でできています。厳しく監視されている作業と偏ることのない更生作業をイメージし、CAPIC・刑務所作業製品がブランドとして確立されていくことを願って作成いたしました。
日本の家具製造業は、ブランドを確立することがなく多くの企業が衰退していきました。家具製造業が盛んな頃はヨーロッパのものまね商品が売れ、次に日本独特の生活感あるデザインに移行しつつある中で価格競争が厳しくなり、ブランド力のない企業は、安価な物作りに向かわざるを得ませんでした。日本での製作から、安い海外製作が多くなり、日本の家具製造業の雇用が増えることがないのが現実です。
全国いたる所にある刑務所は宝の持ち腐れです。各地方の伝統工芸が継承されていて、CAPIC・刑務所作業製品のブランドの中で商品展開できるからです。他が絶対にまねることのできないブランドです。団塊の世代の方々が退職される前に技術の継承と充実を図り、デザインされ直した新しい日本を展開していただきたいと願っています。

民間製造業

デザイナーという仕事がら、民間製造業で製品作りをする機会を多く得ました。しかし、前述のように海外製作が多くなり、更生された受刑者の受け入れ先を心配します。
10数年前から、デザイナーの中には海外で製作する物作りを目指す方が出始めました。安く一般の消費者に物を提供しようということに異論はありませんが、国内生産が高いから、賃金の安い国へという考えは抵抗があります。日本国内の製造業の失業者が増えるからです。私自身は、国内生産にこだわった物作りをこれからも続け、日本の生活スタイルを豊かにしていきたいと思います。
木造の住宅では、日本の文化でもある木造軸組工法ができる大工さんが減ってきています。たたき上げの職人や今まで継承されてきた技術が薄れてきていますが、逆にかつてからある日本のものが蘇ってきていることもあります。例えば、「三和土」です。土間の床のことで「たたき」と読み、3種類の材料を混ぜ調和することから「三和土」と書きます。従来は石灰・赤土・砂利などに苦塩(にがり)を混ぜ、水で練りたたき固めた土間のことで大変な手間がかかります。苦塩を使用したのは、大相撲の土俵を塩で清めるのと同じように、大地を住まいの中に入れ、清めるという願いが込められていました。今のたたきは、土とセメントを混ぜることにより工期を短縮することができ、新しいかたちで復活してきています。本来の清められた三和土のような家庭や社会で育てば、受刑者が減ったのではと思うことがあります。
日本には、インテリアデザインという語が登場するはるか以前から「室礼」という美しい言葉がありました。まだまだ日本は奥が深そうです。これから民間製造業もおもしろくなりそうです。CAPIC・刑務所作業製品は、夢に出るような大変な世界ではありますが、和を感じ日本文化にこだわり、ブランドを確立していただきたいと思います。

一級建築士事務所 スガワラデザイン室
菅原孝則
財団法人 矯正協会発行 月刊誌「刑政」2007年8月

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